【中小企業インタビュー】アルミのプロフェッショナルが究極の下請けを目指す マテリアル 取締役 細貝龍之介氏(前編)

インタビュー
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究極の下請けを目指すー。そう目標を掲げるのは、モノづくりの集積地である東京都大田区でアルミニウムの精密加工や材料販売を行うマテリアル(東京都大田区)だ。創業者で現社長の細貝淳一氏の長男として今後を担う細貝龍之介取締役に、同社の強みや材料価格の高騰・新型コロナの影響、今後の展望を前編で、後編では人材育成・技能継承について聞いた。(後編は12月13日に公開予定)

ーまず会社概要を教えてください。

ちょうど30年前の1992年に父(細貝淳一社長)が創業した会社だ。創業前に材料販売会社に勤めていた細貝社長が当時、材料を販売する会社が材料に穴を開けるなど、ひと加工を加える需要・要望はあったが、そういった加工を行う会社は少ないことに着目し、切断機とマシニングセンタ(MC)を購入して、事業を始めた。現在は大田区内に4拠点を構える。材料販売からスタートした会社だが、現在は精密加工事業が売上の8割以上を占める。取引先は、宇宙・航空・防衛や通信機器といった高品質が求められ、かつ書類管理が厳しい分野を得意とする。商材は、ステンレスなども取り扱うが9割以上がアルミニウムである。

ー高品質が求められる世界でのマテリアルの強み・特徴は?

ISO9001や航空宇宙・防衛産業の品質マネジメントの国際規格JIS Q 9100の取得はもちろんのこと、国家資格(技能士)を12人(特級2人、1級7人、3級3人)が取得している。大型の三次元計測機や画像測定器など多くの検査機器を保有しているのも品質を売りにする当社の特徴だ。計測機器メーカーからも驚かれるほどで、自治体などの検査設備にも引けを取らないと自負している。実際に計測だけを依頼されることもある。

品質と別の視点では、「試作から量産まで対応できる」のも当社の特徴だ。試作から量産までを売りにしている会社は多いと思う。例えば「一つの部品を1000個作ってください」と言われれば、それなりの設備があれば量産が可能だ。当社は同時5軸マシニングセンタ(MC)など27台のMCを保有している。同時5軸MCには20面のパレットチェンジャーを搭載し、無人運転も可能だ。例えば「20個の部品を同時期に試作から量産まで」となると、できる会社は少なくなると思うが当社では可能だ。

同時5軸マシニングセンター(同社提供)

さらに材料販売から会社がスタートしていることもあり、スピード感も重視している。材料注文の世界は、注文の翌日に届くのが基本で、当日対応も少なくない。そういったスピード感を創業当時から培ってきている。

2004年から毎週金曜日に開催している「マテリアル技術塾」も当社の技術力を下支えしている。外部の技術士の先生を招き、3年目までの社員を対象にした研修だ。研修内容の一コマを紹介すると、アルミニウムだと「アニール処理」と呼ばれる熱処理の工程がある。経験者であれば、アニール処理をすると結果がどうなるのかは分かる。ただ、それがどういう事象なのか、理論的にその結果を細かく説明するとなると難しい。現場で作業をしているだけでは、あまり考えないことだ。そういった理論的な考え方など「なぜなぜ」を問い詰めて材料や工具などの研修会を開き知識を蓄積している。

一言で言うと国家資格を多くの者が取得している技術者集団であり、材料の調達から試作、量産まで一貫してスピード感をもって行えるアルミのプロフェッショナルだ。

ー材料費の高騰など足元の状況は?価格への転嫁などは?

材料や工具・電気代、全ての価格が上がった印象だ。価格が上がり始めた段階では、なかなか価格転嫁に苦労した。現在は、高騰している状況が続いているため、少しずつ取引先にも理解してもらい、転嫁できるようになってきている。工具代や電気代などは、間接的なところなので(価格への転嫁は)難しい面がある。

ー売上などの業績面や営業活動での新型コロナ影響は?

一時期、利益率が落ち込んだ時期もあった。ただ、意外に思われるかもしれないが、コロナ禍の2021年6月期(20年7月〜21年6月、同社は6月決算)が過去最高の売上だった。防衛産業などは若干落ち込みはあったが、ほかの分野で売上面での貢献があった。

営業活動では、お客様の個別訪問の回数は多少減ったが、対面での商談を希望するお客様も多くいて、既存顧客に関しての影響は限定的だ。一方で、当社が力を入れている営業方法の一つである展示会出展をきっかけにした新規顧客の開拓が約3年間リアルで開催されなかったこともあり、影響を受けた。ただ、リアルの展示会が増えてきて当社も出展し、新規顧客の獲得もできるようになってきている。

展示会ブース(同社提供)

ー今後、注力していくことは?

「究極の下請けを目指す」ということを現在のテーマに掲げている。例えば、エアコンを例に考えたときに、すぐに思い浮かぶエアコンメーカーがあると思う。それがアルミの切削や部品発注だったら特定の会社を思い浮かべるだろうか。「アルミの切削や部品発注だったら、マテリアルだよね」と誰もが思い浮かぶような世界観を目指している。大田区に工場があるという立地は羽田空港も近くにあり、次の日には全国、さらには海外に製品が届けられる。そういった立地の中で、どうやったら全国のお客様に大田区の町工場が頼られるか、アピールできるのかを考えたときに、しっかりと外に向けて技術力などをプロモーションをしていかなければならない。その一つが「下町ボブスレー」であり、展示会への積極的な出展も一つの手段である。

今期はBtoC向けの自社製品の販売も計画する。まだ認知度が低い業界だと思うので、業界を知ってもらうには一般消費者の方にも購入してもらえるような製品を送り出していきたい。

「下町ボブスレー」プロジェクト(同社提供)

インタビューの後編は「【中小企業インタビュー】新卒離職率100%(全員退職)からゼロに。ーマテリアルが取り組む人材育成と技術継承ー マテリアル 取締役 細貝龍之介氏(後編)」のタイトルで12月13日に掲載予定です。


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