【中小企業インタビュー】世代間の技能伝承はすでに取り組み済!次のステップはスペシャリストの育成へ。電化皮膜工業 廣門専務(後編)

インタビュー
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Make-up for Metal(金属のメイクアップ)。そう掲げるのは、戦後間もない1947年に設立した電化皮膜工業(東京都大田区、秋本恭一社長)。モノづくりの集積地である大田区で一貫してアルミ表面処理やめっき化工を行っている。前編(2月6日公開済み)では同社の強みやIT化の取り組み、材料価格の高騰・新型コロナの影響について、後編では人材育成について廣門伸治専務に聞いた。

ー取引先業種をみると航空・宇宙・防衛と高精度・高品質が求められる印象です。

どの会社でも製造・化工処理ができるのであれば、価格競争になってしまう。当社が立地する都内だと土地代などが高く、その分デメリットとなってしまう。そのため、自動機を撤廃して多品種小ロット生産へ移行(差別化)、IT化による生産性の向上に取り組んできた。また当社の柱の一つである航空・宇宙・防衛の分野はお客様の個別認定・認証がないと仕事を請けられないということが多い。「JIS Q 9100」の取得を前提として、製造・加工のプロセスがきちんと管理され、それを保証する能力が問われる。その中で、当社は様々なお客様から数十種類の認証を取得している。そこをクリアすると指定業者になり、過度な価格競争にはならない。毎月のように取引先企業の品質監査があり、それを継続的にクリアしていることも品質が評価・担保されている一つの理由だと思う。

当社はQPS(品質・プライス・サービス)を掲げている。一般的なQCD(品質・コスト・納期)とは少し違い、コストと納期は当然という前提で、当社は品質とサービスに対して特化し、売り値(プライス)でもきちんとした価格で勝負していくということを掲げている。ロボット化や量産化をされにくい分野で必要とされる会社を目指している。

小ロット・個別生産にシフトしていったとのことですが、そこで重要となる技能伝承・人材育成について、取り組みを教えていただけますか?

自動化をせずに、小ロット・個別生産にシフトをしていくと、人から人への技能の伝承が問題になってくる。この10年ほどで、年配の熟練者は引退して、それに合わせて若い人材を採用していき、現在では20・30代が中心の現場になっている。そういった意味では、世代間の技能伝承はほぼ終わっている。

もう少し技能伝承について教えてもらえますか?

一番のポイントは中堅のキーマンを育てることだった。一般的に昔ながらの職人の教え方として、「言葉ではなく背中を見て覚えろ」とよく言われるように、教えるのが上手ではない場合もある。自分が理論的に習っていない場合もあり、「なぜ後輩に教えてあげないの?」と聞いた時に「どういうふうに伝えていいか分からない」というようなことも当社でもあった。そうなると熟練の職人と新入社員では、世間話はできるけど、技術の話になると会話ができない。新入社員は分からないことがあっても、聞くに聞けない。特に同じようなことを再度聞くときはなおさらだ。それでは「まずい」と思い、中間で橋渡しになるキーマンになる人材を意識的に育てていった。理論なども含めて外部の講習などにも参加してもらい、そのキーマンをリーダーとして技術・情報の集約をしていった。その若いリーダーが理論も含めて、きちんと新入社員に教える。そうすると熟練職人とかけ離れていたギャップを埋めることができ、新入社員も3年もすれば熟練職人とも技術の会話が出来るようになっていった。

世代間の技能伝承について意識的に取り組み始めて、15年くらい経つ。中小企業は一気に3人、5人を入社させることはできない。熟練の職人にも活躍してもらいながら、毎年1人、2人と若い新入社員を増やし、世代間の技能伝承を10年単位で行ってきた。そのリーダーはまだ40代だが、今では工場長として活躍している。

現場の風景(同社提供)

現場業務のローテーション(多能工化)も意識的に行っているとお聞きしました。

当社は月に約400社のお客様と取引をしているため、一品一様で処理していくことが多い。もちろん、処理ごとに難易度も違う。そういったこともあり、様々な処理に対応できる多能工化の育成を意識している。例えば、最初は白アルマイトの作業で基本を覚える。3年くらい経つと、次のレベルの黒アルマイトの染色を行う。その後はさらに難しい硬質アルマイトの処理を行う。それを一巡するには、大体10年くらいかかる。それを1タームとしてローテーションしている。すでにこれらを一巡している人は何人かいるため、緊急事態が起こっても対処はできるような形になっている。

平行して(前編で紹介した)技術情報のデータベース化も行っており、個人のスキルアップと、それを後押しするデータ化の両輪で進めている。

今後の人材育成計画は?

今後はスペシャリストを育成していきたいと思っている。「この仕事をその人に任せれば絶対に失敗しない」というスペシャリストを。ローテーションをしていく中で、それぞれの特性が把握できるようになった。中核となる若手人材も5年、10年と経験を積んでおり、そういった下地ができてきている。工場長とは「彼にはこの業務について専任にしよう」など、そういった話もし始めている。


【編集後記】同社は、現場の自動化ラインを廃止して”アナログ化”を推進し、裏ではうまく”デジタル化”を進めている印象だ。それを10年以上前から行っており、企業の強みを理解し、生かしている良い例である。また、めっき(アルマイト)について詳しく知りたい人は、同社のホームページ内にある「めっき(アルマイト)図書館」は、初心者でも分かる内容になっている。(鎌田正雄)


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