【中小企業インタビュー】材料費が高騰する中、40人規模の中小企業が賃上げに踏み切れた理由とは。 今野製作所  今野社長(前編)

インタビュー
今野製作所 今野社長
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今野製作所(東京都足立区、今野浩好社長)は、材料価格などが軒並み高騰している中、賃上げに踏み切った。同社は経済産業省の「攻めのIT経営中小企業百選2016」や「地域未来牽引企業」に認定されるなど外部機関からの多くの認定・受賞歴がある、いわゆる優良企業だ。自身が中小企業診断士でもある今野社長に、賃上げに踏み切った理由や材料費高への対応などを前編で、後編では同社が課題と感じているサプライチェーンの見直しや人材活用などについて聞いた。(後編はこちら)※写真は9月末に撮影。

コロナ影響を受けているが、見通しはそう悪くない

ーまずは簡単な会社紹介をお願いします。

私の父が1961年に創業した会社で、自社ブランドの爪付き油圧ジャッキ「イーグル」の製造・販売を中心とした油圧機器事業と板金加工事業の2つの柱だ。従業員は約40名で、工場は足立区内に2か所(本社と神明事業所)、福島(福島県相馬郡新地町)に1か所構えている。
1976年から販売を開始した「イーグル」は油圧爪つきジャッキとして日本で初めて商品化した当社のオリジナルブランドだ。20〜30mmのわずかの隙間があれば、低位置から重量物を持ち上げることができ、爪部と頭部の両方が使えるため、通常の油圧ジャッキにくらべて、幅広い場面に応用できるのが特徴だ。一方、創業まもない時からの事業である板金加工事業は下請け的な板金加工から始まり、現在は設計から製作まで行う。主に理化学研究分野の器具製作を受託している。売上の割合は約7割が油圧機器事業、板金加工事業が約3割だ。

ー足元の状況はいかがでしょうか。

多くの企業(製造業)と同様に、当社も新型コロナウイルスの影響を受けた。2022年8月までの前期(同社は8月決算)の売上目標は未達成であったが、底を脱して持ち直してきている。当社のイーグルは設備の据え付け時などで使用されることが多く、製造業全体の設備投資も戻ってきているため、見通しはそう悪くない。

材料価格の高騰する中で賃上げを実施

ー昨今、材料価格の高騰などが課題です。

当社が仕入れる材料費はすべてと言っていいほど上がっている。当社も昨年11月にイーグル製品の値上げをお願いした。コスト上昇分のうち半分を価格転嫁でお客様にご負担をお願いし、残り半分は製造部門の改善努力で吸収する考えだ。しかし、その後も材料費の高騰が止まらないため、この9月にやむを得ず2回目の値上げに踏み切った。さらに工場の電気代なども上昇しているが、そちらの上昇分はまだ盛り込めていないのが現状だ。
板金加工事業は当社の特徴として都度見積もりをするオーダーメイド品が多いため、随時、材料費高騰分の価格転嫁をお願いしている。

ー従業員の生活を守るためにも賃上げも重要です。

この9月に大幅な賃金アップを実施した。当社の給与体系は年齢給+職務給で、年齢給は一定期間上昇し、職務給は個人査定となる。今まで基本的な賃金テーブルの底上げ(ベースアップ)はしてこなかったが、今回は特別に年齢給の部分の賃金テーブルの底上げをし、全体平均で従業員の給料を約5%引き上げた。理由は単純で、生活費の上昇は一部の人ではなく従業員全員に影響する問題で、例えば「営業成績が悪かったから一部の人は給料が上がらない」などの理屈は通用しない緊急事態であるからだ。また賃上げをした理由の一つに社内での改善の成果が出始めていることもある。

ーどのような成果でしょうか。

2、3年前(コロナ禍前)から、材料の歩留まりを良くする取り組みを行っている。鋼材のロスを減らすことを目的として自社開発の設備を製作し、製法を変更するなどを継続的に行っており、その成果が出始めている。製法改善する品目の横展開も実施し、全体の約7割を量産化までこぎつけた。直接的な材料費削減とともに、工数削減もできている。

昨今の材料費などの高騰や未だに収束していない新型コロナウイルスの影響など、経営的には不透明な面もあるが、営業部員がお客様への価格改定をしっかりとお願いしていることや工場での改善成果も出始めているため、今回賃上げに踏み切った。

ショールームを新設

ー神明事業所(東京都足立区)に新しいショールームを開設しました。その狙いは?

もともと神明事業所の建屋内の一角に展示スペースを設けていたが、稼働設備の音の干渉などがあったため、同事業所内の駐車場のスペースに独立したショールームを設け、10月に竣工した。アフターコロナで、対面の商談が増えることを見据えている。一方で、コロナ禍でオンライン商談が一般的なったことやドイツや台湾などの海外提携先との打ち合わせをオンラインで行うこともある。単なるオンライン会議ではなくテレビショッピングのように製品のデモの様子が分かりやすく説明できるように複数のカメラやカメラアングルの切り替えを行う映像ミキサーなどの配信設備を自前で整えた。

神明事業所内に新設したショールーム

インタビューの後編「円安、サプライチェーンの見直し、人材育成。中小企業の多くが抱えているであろう課題にどう取り組んでいるのか? 今野製作所 今野社長インタビュー(後編)」はこちらからご確認ください。


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