【中小企業インタビュー】円安、サプライチェーンの見直し、人材育成。中小企業の多くが抱えているであろう課題にどう取り組んでいるのか? 今野製作所 今野社長(後編)

インタビュー
今野製作所 今野社長
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今野製作所(東京都足立区、今野浩好社長)は、材料価格などが軒並み高騰している中、賃上げに踏み切った。同社は経済産業省の「攻めのIT経営中小企業百選2016」や「地域未来牽引企業」に認定されるなど外部機関からの多くの認定・受賞歴がある、いわゆる優良企業だ。自身が中小企業診断士でもある今野社長に、賃上げに踏み切った理由や材料費高への対応などを前編(こちら)で、後編では同社が課題と感じているサプライチェーンの見直しや人材活用などについて聞いた。※写真は9月末に撮影。

サプライチェーンの見直しに取り組む

ー現在取り組んでいる課題は?

一番のテーマはサプライチェーンの見直しだ。製品の一部を台湾の協力工場でも生産しており、サプライチェーンに混乱が起きた場合を見越して、内製化率を高めようとしている。特に昨今の急激な円安が進む中、海外で生産するコストメリットが減っている。そういう意味では為替が円安・円高のどちらに振れても、あまり影響が出ないようにしたいと思っている。当社は(先代の頃は)アウトソーシング型で、言ってみればファブレスの走りであった。良い面がある一方、技術力が社内に蓄積されないというのも問題だ。内製化は、この15年行ってきたが、さらに推進させていく。引き続き、台湾の協力工場でも生産は続けるが、内製化率を高めることで小回りを利かせ、設計から製作まで小ロットで顧客の要求に合わせてモノを作る能力をさらに強化する。そのためには、IT技術も駆使して「デジタルものづくり」をさらに進めていく。

2020年に神明事業所(東京都足立区)も新設し、新しい設備も導入した。今までは、協力工場に加工を頼んでいた業務も神明事業所で設計からレーザー加工や機械加工が自社で行えるようになった。そのため、スピーディーな顧客への特注対応や製品開発に活きている。

実践的にモノづくりができる人材育成を

ー内製化を進める上で、人材育成も重要です。

多能工の育成を意識している。当社は大きく分けて自社ブランドの爪付き油圧ジャッキ「イーグル」を中心とした油圧機器事業と板金加工事業に分けられるが、技術スタッフ部門は事業部別ではなく独立した組織にし、両事業に関わっている。神明事業所で働く技術スタッフは、製品設計、生産技術、新規設備導入、板金設計、油圧機器の特注開発等、多岐にわたる業務をプロジェクト単位でこなしている。さらにはCADに向かうだけでなく、自らが設計した試作品や治具等を、自らが機械を操作して加工も行う、いわゆる多能工だ。

そのために、各種研修にも力を入れている。例えば技術部門の新入社員向けに3次元CADの外部研修や、溶接技術の向上のために東京都立城東職業能力開発センターで溶接科の講師を勤めるCreative Works(東京都江戸川区)の宮本卓社長に定期的に来社してもらい、理論的なアプローチも含めた研修の場を設けている。外部・内部研修を最大限に活用し、実践的にモノづくりができる人材育成を心がけている。

溶接研修の様子(同社提供)

総力をあげてチームで採用!

ーそういった中で人手不足感はありますか?

当社に限った話ではないと思うが、人材採用は最重要課題だ。「総力をあげてチームで採用!」を合い言葉に、求人・採用プロセスの見直しと改善を行っている。ネームバリューのない中小企業は、一生懸命、最大限の熱意を持って採用にあたらなければ求める人材に来てもらえない。先日、「うちの会社のよさはどういうところにあるか?」の全社アンケートを行った。社員の生の声を聴いて、会社の魅力にまず自分たち自身が気付いて、それを採用時の会社PRに活かそうと、いま業務スタッフが頑張っている。

採用活動を継続して行う一方で、多様な働き方を推進する社内制度として「短時間正社員制度」を導入している。同制度は一日の勤務時間あるいは一週間の勤務日数を短縮したうえで、勤務時間に比例した給与を支給する制度だ。給与のベースとなる職級については、フルタイム正社員と同じ基準で評価するもので、子育てなど様々な理由で退社せざるを得なかった人やフルタイムで働けない人にも安心して実力を発揮してもらえる。フルタイムで働けるようになれば、通常の正社員として復帰できる。現在2名の従業員が同制度を活用している。

ーでは最後に採用活動における求める人材像は?

性質の違う二つの事業、多能工の育成を心がけていることもあり、一貫してモノづくりを行いたい人には、なかなか飽きない職場だと自負している。実践的なモノづくりができる人材育成を心がけているため、モノづくりが好きな人に来てもらいたい。技術者でなくても、工業系の多少の下地などがあれば未経験者もウェルカムだ。一昔前の製造業のイメージは厳しい職人がいて、怖いイメージを持つ人もいると思う。当社は全く逆で、「力をあわせる力がある。」と会社のスローガンを掲げている通り、先輩社員も「教え合うことや助け合いながら早く一人前になってもらおう」という気持ちでいる。


【編集後記】今回のインタビューでは特に触れなかったが、同社はDXやIoTという言葉が一般的になる前から工程進捗の見える化などのデジタル化を推進している。さらにそれを自社内だけでなく、協力関係にある企業とデータ連携をしているのも特徴だ。今野社長はいつも謙遜して話すが同社の様々な取り組みは、多くの中小企業にとって模範または経営のヒントになることも多いだろう(鎌田正雄)

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