宮本溶接塾を取材してみた【中小企業現場取材】

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Creative Works(クリエイティブワークス、東京都江戸川区、宮本卓社長)が運営する個人向け溶接研修「宮本溶接塾」が密かに注目を集めている。同塾は初心者でも溶接技術が学べ、習得できるのが特徴。第6期(6人が受講)の最終日を取材し、塾長の思いや受講生などの声を聞いた。

「不足している溶接職人を育成し、製造業に貢献するだけではなく、自立して柔軟な働き方の選択肢を与え、職人一人ひとりの未来を応援したい」。そう強く語るのは宮本溶接塾の塾長でCreative Worksの宮本社長。自身は東京工業大学大学院で金属工学を専攻し、大手鉄鋼メーカーなどを経て、Creative Worksを創業、2022年9月には法人化した。東京都の職業能力開発センターの溶接科でも講師を長年務める。同社は宮本溶接塾のほかに法人向けの溶接研修やコンサルティング、溶接及び金属加工の受託を行う。

宮本溶接塾のTIG溶接の基礎から学ぶ「溶接入門コース」は、1期あたり12回(各回3時間)の講座で溶接の基礎からTIG溶接機の使い方、ステンレスとアルミニウムの溶接の実習など総合的に学ぶことができる。習得した技術で卒業制作を製作して卒業する。2017年から開講し、このほど第6期が終了した。受講料は19万8,000円(消費税込み)で、個人向けとしては決して安くはないが、第6期は募集開始後、すぐに定員に達した。個人向け講座となるが、企業からの申し込みも可能。

宮本溶接塾溶接入門コースのカリキュラム(Creative Worksの資料を基に当社作成)

過去の受講生は、機械メーカーの間接部門、板金加工会社の役員、会社経営者など、様々な人たちが参加。受講理由も「個人としては溶接技術を高めるため」、「DIYなどの趣味のため」、「製造業の間接部門に所属し、普段は溶接をすることはないが、溶接作業を体感するため」など多岐にわたる。

第6期生の松井 萌(きざし)さんは、オフィス家具メーカーで開発業務に従事する会社員。塾への参加動機は「アメ車をTIG溶接でカスタマイズする姿をYoutubeなどでみて、自身でもやってみたい」と思ったのが、最初のきっかけ。学生時代はプロダクトデザインを専攻していたこともあり、「自分で製品を1から10まで作れるようになりたい」との思いもあり、まずは体験コース(3時間/1回)を受講し、本講座への参加を決めた。講座を終え「最初はビードを引くのも難しかったが、今では出来るようになった。溶接塾が目的とする技術や知識の定着はできていると思う」と振り返る。「仕事柄、図面を描くなかで溶接に接する機会があるが、そういった場面でもこの経験は活かせると思う」と語った。

溶接研修中の松井さん(左)と宮本塾長(右)

同じく第6期生で、仕事での活用を目的に参加したのは、店舗内装工事を請け負う株式会社KEFI/WORKS社長の鈴木 良知(よしとも)さん。自社で木工工場なども保有し、木工加工は得意とするが、金物装飾品などは発注側として、実際にその製品がどう作られるのか?に以前から興味があり、入塾を決意。実際の感想として「職人の世界だな」と実感し、自身も「最初と比べて、かなり上達した」という。さらに「(溶接を実務で行う人も)ここで一回勉強して現場に入ったほうが上達が早いと思う。ここまで細かく教えてくれないのでは」と振り返る。卒業制作では溶接機を置くワゴンを製作。溶接機も購入して「(プロレベルに到達するのはもう少し時間がかかると思うが)仕事の一つとしていきたいと思っている」という。

卒業制作のワゴン作りに取り組む鈴木さん

講師陣の輪も広がっている。塾の開設当初は宮本社長一人での運営だったが、現在は板金事業などを手掛ける今野製作所(東京都足立区)の社員で溶接歴10年の陳貴光さん、都立城東職業能力開発センターで溶接技術を習得した中村翠さんなど、30-40代の若手が中心となり、スタッフを含め6人で運営するようになった。製造業に50年以上携わる宮本社長の父の宮本修治さんもスポットではあるが、講師として熟練のノウハウを伝授する。

4月からスタートする第7期の募集もこのほど始めた(関連記事参照)。

宮本社長は同塾を「車の運転で例えるなら、教習所」と位置付ける。車の教習所では車の運転の仕方やルールを学び、免許習得後は自身が道を走りドライビングスキルを積んでいく。車の運転で“稼ぐ”プロのレーサーやトラックの運転手もいれば、趣味や買い物用と様々な運転の仕方がある。同塾も溶接機の取り扱いや溶接の基礎技能を習得する教習所のような立場として、その後、プロの溶接職人や趣味・DIYなど様々な場面で“溶接をする”という選択ができるようになり、「利用者のすそ野を広げていく役目を担っていきたい」と説明する。

また「現役の溶接職人にとって、(講師として)指導の仕方を学ぶ場であり、会社以外で溶接技術が発揮できるサードプレイスの場でありたい」との思いもある。その先には「職人でありながら、モノを作る以外に“教える”という方法での稼ぐ力もつけてもらいたい」と考えている。今後の抱負として「今後10年で1000人の卒業生を輩出したい」と意気込む。

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