中小企業の成長とエクイティ・ファイナンスの関係性(2022年版中小企業白書の統計データを抜粋してみた㊲)

統計・調査記事
この記事は約5分で読めます。

毎年、経済産業省中小企業庁から発行される中小企業白書。2022年版の白書は表紙から参考文献などを含めると590ページに及ぶ。そこで、統計データを、中小企業に関係する者が参考にしやすいように抜粋して、回数を分けて紹介する。第37回目は成長のための資金としてのエクイティ・ファイナンスの検討についてまとめた。
※エクイティ・ファイナンスとは、会社の事業や取組みならびに将来性等に対する評価のもと、株式を発行する対価として出資者から資金提供(出資)を受けることを指す。

ユニークアイズサマリー:今回は資金としてのエクイティ・ファイナンスの検討についてである。中小企業に新型コロナウイルス感染症収束後の事業の方向性を確認した問いでは、半数以上の企業が「成長を目指す」と回答している。直近5年間程度の資金調達の方法では、「銀行等金融機関からの借入(社債含む)」の回答割合が最も高かった。増資ではなく、借入れによる資金調達を選択した理由について、全体では、「借入先に融資を前提に相談した」「借入先に資金調達についての相談をした結果、提案されたのが融資であった」と回答した企業の割合が合わせて76%となった。一方で、資金調達の手法として今後増資を検討したいかとの問いでは、全体で「積極的に活用したい」、「機会があれば活用を検討したい」と回答した企業の割合が合わせて37%だった。理由は、「収益化までに時間がかかる新しい事業にチャレンジができる」の回答割合が最も高かった。

昨今の経済情勢において物価高や新型コロナ影響など足元の対応に迫られている企業も多い。中小企業庁のHPでは「現状では、中小企業者に対するエクイティの出し手が少ないことも大きな課題です。これは、通常の中小企業者に対して出資をしたとしても、IPOやバイアウトによるEXITが想定しにくく、高いIRR(内部収益率)が実現できないことが大きな理由です」と記載があるように、中小企業の成長のための資金調達方法としては出資者・出資先企業とも課題が多そうだ。

※以下、本文中の文章は「中小企業白書 2022」から一部抜粋したもの。
※本記事の図はすべて「中小企業白書 2022」から抜粋しているが、元データの参照元は図表内に記載されている。

現在の借入金の過剰感別に見た、感染症収束後の事業の方向性

第2-2-156図は、借入金の過剰感別に、感染症収束後の事業の方向性を確認したものである。これを見ると、「成長を目指す」と回答している企業の割合に大きな差はなく、債務の過剰感とは関係なく、感染症収束後には成長を目指したいと考えている企業が半数以上存在する様子がうかがえる。

(出典:中小企業白書 2022)

成長投資のための資金調達の手段(売上規模別)

第2-2-157図は、過去(直近5年間程度)における、資金調達の方法を確認したものである。これを見ると、全体において、「銀行等金融機関からの借入(社債含む)」の回答割合が最も高くなっていることが分かる。一方で、増資による資金調達を実施した企業の割合は総じて低くなっている。また、売上規模別では、1億円以上10億円未満の企業において、補助金を活用している企業の割合が高いことが分かる。

(出典:中小企業白書 2022)

成長投資への資金調達として借入れを選択した理由(売上規模別)

続いて、第2-2-158図は、増資ではなく、借入れによる資金調達を選択した理由について確認したものである。全体では、「借入先に融資を前提に相談した(資金調達として、それ以外に思い当たらなかった)」、「借入先に資金調達についての相談をした結果、提案されたのが融資であった」と回答した企業の割合が合わせて76%となっており、多くの事業者が増資による資金調達自体を検討せずに借入れによる資金調達を選択している様子がうかがえる。

(出典:中小企業白書 2022)

成長投資への資金を借入れで調達したことへの考え(売上規模別)

第2-2-159図は、成長投資への資金を借入れで調達したことへの考えを示したものである。全体では、「何も問題はない」と回答した企業の割合が最も大きいものの、「借入金の返済に向けて投資した事業から早期に利益を生み出さなければならず、大きなチャレンジはしにくかった」や「希望した金額を調達することができず、当初の予定よりも小規模な取組みしかできなかった」と回答した企業の割合の合計が約4割となっており、借入れでの資金調達では、やりたかったチャレンジができなかったと感じている企業が一定数存在する様子がうかがえる。

(出典:中小企業白書 2022)

今後の増資による資金調達の活用意向と検討したいと思う理由

第2-2-160図は、資金調達の手法として、今後増資を検討したいと考えるかを確認したものである。全体では、「積極的に活用したい」、「機会があれば活用を検討したい」と回答した企業の割合が合わせて37%となっており、売上規模別で見ると、売上規模の小さい企業では少し割合は下がるものの、エクイティ・ファイナンスの活用に関心がある企業が一定程度存在することが分かる。また、第2-2-161図は、増資による資金調達を検討したいと回答した企業に対して、その理由について確認したものである。全体及びいずれの売上規模においても、「収益化までに時間がかかる新しい事業にチャレンジができる」の回答割合が最も高くなっており、次いで「アフターコロナを見据え、事業転換のための投資ができる」、「中長期的な目線で研究開発等ができる」と回答している企業の割合が高くなっている。返済の必要がない資金というエクイティ・ファイナンスの特徴が、新規事業や事業転換といった取組のための資金として適していると考えている事業者が一定程度存在することがうかがえる。

(出典:中小企業白書 2022)
(出典:中小企業白書 2022)

エクイティ・ファイナンスのメリット

最後に、第2-2-162図はエクイティ・ファイナンスを既に利用している企業に対し、メリットを確認したものである。これを見ると「資金繰りの安定化」と回答した企業の割合が最も高くなっており、次いで「ガバナンスの強化」や「出資元からの人材面での支援」と回答した企業も一定数存在する。資金調達においてエクイティ・ファイナンスを活用することは、資金繰り面での効果以外にも、人材面での支援などの効果も期待できるといえよう。

(出典:中小企業白書 2022)
PAGE TOP