【中小企業インタビュー】年間取引先は40社から90社へ倍増。変化の激しい時代に生き残るための成長戦略とは?ミヨシ 杉山社長(後編)

インタビュー
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「捨てられないものづくり 人の役に立つものづくり」。そう企業理念に掲げるのはプラスチック射出成形金型製作などを行うミヨシ(東京都葛飾区、杉山耕治社長)だ。杉山社長が社長に就任した約10年前にこの企業理念を掲げ、顧客に寄り添った会社経営を行う。インタビューの前編では、企業理念の思いや昨今の新型コロナや物価高対策、人材育成について、後編では、この10年で行ってきた取引先の拡充や今後の成長戦略について杉山社長に聞いた。

取引先企業の多角化と拡大

ー社長に就任されてこの10年を振り返ると?

売上の推移を簡単に説明すると、多くの企業と同様にバブル期がピークで、バブル崩壊後に売上が下がり、持ち直してきたところにリーマンショック(2008年)の影響を受けた。その後、徐々に持ち直してきている。私が入社したのが2003年で、社長に就任したのが2012年だ。

まず社長に就任して取り組んだのが、取引企業・業種の拡大だ。社長就任前は、7-8割が自動車関連の仕事で、特に大口2社からの受注が大半を占めていた。もし、自動車産業が傾くと会社が潰れてしまうといった危機感もあり、他業種との取引を拡大していった。社長就任前は自動車業界を中心に取引先企業は年間40社程度だったのが、現在は約90社まで拡大して、取引先業種の多角化も図った。新しい取引先の開拓は、営業コストが掛かり、新規で契約書を締結するなど、負担も多いがリスクヘッジとしてはすごく大切なことだと考える。

ー具体的にはどのように取引先を拡大していったのですか?

まず、「外に出る」ということを心がけた。ベンチャー企業の集まりに参加したり、講演を行ったり、技術士会などのさまざまな会合に参加し、横のつながりで新しい企業との取引が始まった。

ほかには、お客様がお客様を紹介してくれるケースも多い。共同で開発したロボット工作キット「RAPIRO(ラピロ)」の影響で仕事に繋がったこともある。

(ロボット工作キット「RAPIRO(ラピロ)」。同社提供)

原理原則を知る技術者がさらに必要になる

ー変化の激しい時代で生き抜いていくためには?

日本の労働人口は減少していく中で、DX(デジタルトランスフォーメーション)やAI(人工知能)、ITなどを駆使して効率化しようということに目が向けられている。一方、実際の現場では手を動かして、原理原則を知ってモノづくりをする技術者が減っている。今後、デジタル化が進む中でも現場を熟知し、細かく修正できる技術者は必ず必要になる。

若くからモノづくりができる貴重な社内人材を育てていくことが重要と考える。今後、産業の空洞化が生じたときに、モノづくりができる技術者層がいる当社が仕事が得られる確率や優位性が高くなると考えている。現場・現物・現実の三現主義に基づいた技術提案をこれからも強みとしていきたい。

また、環境に配慮したものづくりは今後絶対的に必要になる。当社は、エコアクション21の取り組みをきっかけに平成28年度省エネ大賞 省エネ事例部門 「中小企業庁長官賞」を受賞するなど実際に現場でも環境負荷を減らす活動を行ってきている。石油由来ではなく植物由来の機能性の高い環境負荷軽減プラスチック材を、より普及させるとともに、循環型社会の形成に向けた製品開発を推進していく。

5年後の目標は売上倍増

ー今後会社をどう成長させていきますか?

5年後には直近の2倍の売上高を目指していく。現在、お客様から相談されても社内で請けきれないことや、思うように営業活動ができないこともある。お客様に寄り添ってモノを作るためには、もう少し人員が必要と考える。人員も徐々に増やしながら、毎年20%売上増を目指し、そのためには新しい工場も視野に入れている。

売上を上げるために具体的には、どのような施策を考えていますか?

現在の受注型の仕事だけでは、(景気にも左右され)波がある。それ以外の基盤となるストックビジネス、定期的に一定の収入がある仕事が必要と考えている。それが(前編でも紹介した)「ミヨシ工房」でも出展をしている自社製品だ。2月には柄の長いスプーン『SNOPPO』の販売を当社ECサイトで開始した。深いビンを救う時や調理の時など、様々な用途で使用できる特徴がある。今の仕事で利益が出せている間に新しいストックビジネスの基盤を作っていきたい。

(2月に発売を開始した柄の長いスプーン『SNOPPO』。同社提供)

自社製品を展開する理由は二つある。一つ目はもちろん、利益を出すこと。ただ、大儲けは狙っておらず、コツコツと内野安打を増やしていきたい。特許を取れば別だが、大儲けするような製品だとすぐに真似されて、開発した労力が無駄になってしまうことも想定される。他社が真似するか考えたときに、絶妙に真似されないニッチなところを狙っていきたい。二つ目は宣伝効果だ。BtoCでも宣伝・露出をしながら新しい顧客獲得も狙っていきたい。現時点では、自社製品を1年に1-2個作っていきたいと思っている。

自社製品のお披露目の場として、オープンファクトリーも想定している。
※オープンファクトリーの記事は別途公開予定※

新しい工場については、まずは従業員を増やして技術力を身につけることが先決と考える。やはり、人を増やす計画があっても、採用が難しいのが現状だ。一昔前であれば、工場や設備を整えて、採用をしても間に合っていたと思うが、人がいなければどうしようもない。M&Aも選択肢の一つだとも考えている。


編集後記:とある展示会に出展していた同社のブースを訪問し、杉山社長に取材依頼をし、後日取材した。その展示会は決して大入りではなかったが、同社のブースには代わり替わりに人が吸い込まれていた印象で、取引企業が倍増しているという話もうなづける。「取引先の多角化」や「自社製品開発」、その先にある成長戦略と、多くの中小企業にとって参考になる面が多くあるのでは。(鎌田 正雄)


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