【中小企業インタビュー】コロナ禍のピンチをチャンスに!技術力を磨き、自社製品の立ち上げも。 ミヨシ 杉山社長(前編)

インタビュー
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「捨てられないものづくり 人の役に立つものづくり」。そう企業理念に掲げるのはプラスチック射出成形金型製作などを行うミヨシ(東京都葛飾区、杉山耕治社長)だ。杉山社長が社長に就任した約10年前にこの企業理念を掲げ、顧客に寄り添った会社経営を行う。インタビューの前編では、企業理念の思いや昨今の新型コロナや物価高対策、人材育成について、後編ではこの10年で行ってきた取引先の拡充や今後の成長戦略について杉山社長に聞いた。

金型製作から成形まで一貫対応

ー会社概要を教えてください。

1982年に設立し、社員数が19人(パートタイム含む)の会社で、2012年に先代から引き続く形で私が社長に就任した。プラスチックの試作品や金属試作品、治工具の製作などが主な事業である。初期段階の原理試作から量産前の試作を行い、小ロットの量産も行っている。取引先業種は自動車電装部品やOA機器、医療機器や研究用などで、取引先は大企業・小企業・ベンチャー・大学など幅広い。複数のマシニングセンタやフライス盤、放電加工機、射出成型機や各種測定器などを保有し、金型製作にかかわる設計から成形まで社内で一貫して対応可能だ。他社との共同開発品や自社製品の開発・販売も行っている。

(2階にはスタイリッシュなラウンジも。同社提供)

ー会社の強みを教えてください。

金型製作から成形まで一貫して対応できるメリットは、金型を製作して成形するため、成形時に何か問題があれば金型の設計にすぐフィードバックができる。そのため、試作のリードタイムが早くなるため、結果的にスピード感を持ったお客様対応が出来ている。特にアルミ金型を用いたプラスチック製品・試作を得意とする。

当社の企業理念にも関係するが、開発段階の試作品をお客様と話し合いをしながら製作していることも強みと言えるかもしれない。図面だけを見て、図面通りにモノを作るだけだと、本質を見失ってしまうこともある。当社は開発段階で、ヒアリングをしながらお客様に寄り添ったモノを作ろうと決めている。例えば、当社が一番得意とするのは、材料の自由度が高いプラスチックの少量生産で手のひらサイズまでの大きさだ。100-5,000個くらいの依頼が多く、その辺は「コストメリットが出せます」と話している。一方で、100個くらいまでの数量や限られた材質などであれば、場合によっては曖昧な返答はせずに他社の方が優れていると説明している。

(工場の様子。同社提供)

企業理念策定の思い

ー企業理念の「捨てられないものづくり人の役に立つものづくり」の思いは?

約10年前に私が社長に就任した時にこの企業理念を策定した。これが当社の柱となっている。入社前は大手造船メーカーの系列企業で、ごみ処理施設のメンテナンスの現場監督をしていた。ごみ処理場を見てきた中で色々と感じることが多かった。少し前のデータだが、東京都のゴミ排出量を人口で割ると一人当たり1日790グラムのゴミを排出していることになる。ゴミの量も経済成長とともにバブル期にピークになった。その後、経済の停滞とともに少なくなってきているが、今は横ばいの状態が続く。それは私たちの生活が便利になり、大量生産・大量消費の生活から脱し切れていないということだ。日本は世界でも有数の焼却施設があり、燃やす文化が根づいている。もちろん、ゴミを焼却するために多くのエネルギーを使う。日本はエネルギー自給率が低く、世界的にも消費量が多い中で資源の再利用とゴミ問題は凄く深刻だと感じている。

日本は自然災害が多い一方で、現存する世界最古の木造建築物がある。資源が乏しい反面、モノを大切する文化や工夫する文化がある。当社も日本のモノづくり企業として、そういったモノを大切にする文化を引き継いでいくことを企業理念としている。品質や機能、デザインにこだわりを持たせることなど付加価値が高いものはライフサイクルが長くなる。使用する側の視点を考慮し、役に立つモノづくりが大事だと考える。それがさきほど、強みの部分でも紹介した「お客様に寄り添う」ということにも繋がっている。

経営理念の基、さまざまな環境への取り組みが、平成28年度省エネ大賞 省エネ事例部門 「中小企業庁長官賞」を受賞したことにも繋がった。

空いた時間を活用し技術力をアピール

ー新型コロナウイルスの影響や材料費の高騰に対しての対策は?

プラスチックの材料やアルミなど、仕入れ価格が10-20%は上がっている。まずは、どのくらい材料費が上がっているのか、さらに東京都の最低賃金の上昇率などをデータ化し資料としてまとめた。その資料も提示しながら昨年の10月から個別のお客様に値上げのお願いをしている。難色を示すお客様もいるが、概ねご理解をいただいている。

新型コロナ影響では、やはり最初の3か月くらいは数字(売上)が悪かった。そこで雇用調整助成金を活用するかを社内で話し合った。ただ、それに頼り始めてしまうと、それがないと生きていけない会社になってしまうという危惧もあった。そこで、空いた時間を自分たちで新しい技術習得や技術力をアピールするサンプル品を製作してお客様に営業活動をするのか?それとも休暇を取るか?を社員に問いたところ、サンプルを作ろうという話になった。当社はお客様の試作品(世に出ないもの)を製作しているため、社外に対してモノを見せて技術力をアピールする機会が少なかった。

サンプル作りは短期的には人件費や材料費が掛かるため赤字ではあるが、必ず回収できると思っていた。実際に当社の技術力をアピールするサンプル品を製作・配布することで、新規顧客の獲得に繋がり、今では大口のお客様になっている企業もある。さらにマスクケースやセルロースナノファイバー(CNF)を活用した樹脂のペンケースなども製作し、自社ECサイト「ミヨシ工房」を立ち上げて販売も開始した。爆発的に売れたわけではないが、新しい取り組みとしては成功したと思っている。

新入社員がマニュアル作成

ー人材育成や社内教育の取り組みについて教えてください。

当社が大事にしているのは、技術・倫理・ビジネスマナーだ。技術面では、新入社員教育の一環としてマニュアル化を進めている。新入社員に仕事を教えても、その新入社員が何を理解し、何を理解していないのかが、教える側も分からない。それを見える化をするために、新入社員に「教わった仕事をマニュアル化してもらう」取り組みをしている。例えば機械の操作をマニュアル化してもらう。先輩がそのマニュアルを見て、段取り抜けがないか、重要なポイントを理解してるかなどが確認できる。そうすることで、失敗をする前に何が理解できていないかをフィードバックすることができる。

倫理面では「ミスメモ」という社内活動を行っている。人間はミスをした時に自分を守りたいと思って、小さなことでも嘘をついてしまったり、隠してしまうことがある。最初は本当に現場レベルの小さいことでも、いつの間にか組織ぐるみになり、大事になっているというのは、大企業の検査不正問題の例などでも見られる。当社が取り組んでいるのは、小さなミスでも全部記録して共有をする「ミスメモ」活動だ。一般の社員であっても、社長の私でもミスをした時はミスメモに記入している。みんなのミスを共有化することで罪悪感を無くしたいという思いと、新入社員が先輩の失敗例を見ることにより、失敗をしないシミュレーションをすることができる。

ビジネスマナーに関しては社内メンター制度を設けている。例えば、学生の考えでは就労開始時間の1分前に出社しても遅刻ではないと考える人もいる。ただ、会社では開始時間に業務がスタートできるように最低10分、15分前には出勤し落ち着いて仕事に入れるようにした方が良いよね。というのがビジネスマナーだと思う。社内メンターが従業員に月に2回ヒアリングなどをしてビジネスマナーも含めた説明・教育・伴走する取り組みをしている。メンターには良い点と改善点をまとめてもらい、それをもとに管理職がその人にあった対応を考える。そのほかにも「私と1年目の新入社員との15分面談」と言って、私がひたすら新入社員の考えを聞くということも行っている。

全てに通ずることであるが、「ほったらかしには絶対にしない」ということを心がけている。


インタビューの後編「【中小企業インタビュー】年間取引先は40社から90社へ倍増。変化の激しい時代の成長戦略とは?」はこちらから。


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