中小企業で経営理念・ビジョンを掲げる企業の割合は?(2022年版中小企業白書の統計データを抜粋してみた⑰)

統計・調査記事
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毎年、経済産業省中小企業庁から発行される中小企業白書。2022年版の白書は表紙から参考文献などを含めると590ページに及ぶ。そこで、統計データを、製造業を中心に中小企業に関係する者が参考にしやすいように抜粋して、回数を分けて紹介する。第17回目は中小企業における経営理念・ビジョンの浸透(その1)についてまとめた。

【ユニークアイズサマリー】経営理念・ビジョンを明文化している中小企業は約9割に上る。企業の属性問わず、「顧客満足、信頼獲得」を掲げる割合が最も高く、次いで「社員の幸福」、「社会への貢献・社会的使命」と続く。BtoB向けの企業は、「高品質、技術・サービスの向上、イノベーション」を回答する企業がBtoC向け企業と比べて2割程度高くなっており、自社の企業活動における付加価値を高めていく意識の傾向がある。経営理念・ビジョンを明文化している企業は、していない企業と比べて、労働生産性の上昇幅が大きい結果が確認された。

上記の通り、大半の企業が経営理念・ビジョンを明文化している。さらに明文化をしている企業は労働生産性の上昇幅が大きい。ただ、経営理念・ビジョンは価値観や行動規範などを明文化しているもので、悪く言えば抽象的なものだ。筆者も新卒で入社した中小企業では、経営理念を意識していなかった。いかに経営理念・ビジョンをかみ砕いて、末端の社員にどう浸透させるかがポイントと言えるだろう。

※以下、本文中の文章は「中小企業白書 2022」から一部抜粋したもの。
※本記事の図はすべて「中小企業白書 2022」から抜粋しているが、元データの参照元は図表内に記載されている。

経営理念・ビジョン策定の現状

Collins・Porras(1995)は、経営理念・ビジョンとは①コアバリュー、②パーパス、③ミッションの三つの要素で構成されると説明し、経営理念・ビジョンと経営戦略、経営戦術の関係を示している(第2-2-57図)。その中で、優れた企業が持つ経営理念・ビジョンとして、「明確さ」(組織内できちんと理解されていること)と、「共有」(組織成員が賛同し、組織に浸透していること)の二つの条件を指摘し、これらが満たされることで経営理念・ビジョンが初めて真の効果を発揮すると説明している。他方で、二つの条件を満たしていない組織は、取り巻く環境の変化や課題に対する経営戦略が曖昧となり、対症療法的な経営判断や戦術遂行とならざるを得ないと指摘している。

(出典:中小企業白書 2022)

経営理念・ビジョンの明文化の状況

第2-2-58図は、経営理念・ビジョンの明文化の状況を示したものである。これを見ると、約9割の企業が経営理念・ビジョンを定めており、明文化していない企業は1割程度であることが分かる。

(出典:中小企業白書 2022)

取引先属性別に見た、経営理念・ビジョンの内容

第2-2-59図は、取引先属性別に見た、経営理念・ビジョンの内容を示したものである。これを見ると属性を問わず、「顧客満足、信頼獲得」を掲げる割合が最も高く、次いで「社員の幸福」、「社会への貢献・社会的使命」が高いことが分かる。特にBtoC は、顧客を意識した経営理念・ビジョンを掲げる企業がBtoBと比べて1割程度高くなっており、約9割が顧客からの信頼獲得を念頭に置いている。BtoBは、「高品質、技術・サービスの向上、イノベーション」を回答する企業がBtoC と比べて2割程度高くなっており、約6割が掲げている。自社の企業活動における付加価値を高めていく意識の傾向が見て取れる。

(出典:中小企業白書 2022)

経営理念・ビジョンの内容(労働生産性の変化)

第2-2-60図は、経営理念・ビジョンの内容別に見た、労働生産性の上昇幅を示したものである。今回の調査結果で一概にはいえないが、経営理念・ビジョンを明文化している企業は明文化していない企業と比べて、労働生産性の上昇幅が大きい結果が確認される。経営理念・ビジョンを明文化していない企業は、Collins・Porras が指摘するように、経営理念・ビジョンが明確となっていないことから目の前の課題に対する経営戦略が曖昧となっている企業も少なくないとみられ、結果として感染症流行前後での企業業績にも影響を与えている可能性が考えられる。

(出典:中小企業白書 2022)

ステークホルダーに関する経営理念・ビジョンを掲げる企業

第2-2-62図は、ステークホルダーに関する経営理念・ビジョンを掲げる企業について示したものである。これを見ると、8割以上の企業は、複数の利害関係者を意識した経営理念・ビジョンとなっている。近江商人の「三方よしの精神」に代表されるように、特定の利害関係者ではなく、企業を取り巻く複数のステークホルダーとの共生を追求した経営理念・ビジョンを掲げる企業が少なくないことが見て取れる。

(出典:中小企業白書 2022)

顧客・社員・取引先に関する経営理念・ビジョンと社会への貢献を掲げる企業

さらに第2-2-63図は、社員・顧客・取引先に関する経営理念・ビジョンと社会への貢献を掲げる企業との関係を示したものである。これを見ると、社員や顧客・取引先に関する経営理念・ビジョンを掲げる企業は、6割以上が社会への貢献も経営理念・ビジョンに含んでいる。社会的な貢献も念頭に置いた経営理念・ビジョンを打ち出すことで、社会における自社の存在意義も追求していることが見て取れる。ステークホルダーへの貢献・信頼獲得を重視したパーパス経営が世界的に注目されている中で、今回の調査結果を鑑みると、我が国の中小企業は、企業を取り巻く利害関係者(顧客・社員・取引先・社会)との結びつきを意識してきた企業が一定数存在することが確認される

(出典:中小企業白書 2022)
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