経営理念やビジョンを歴代経営者から継承している中小企業の割合は?(2022年版中小企業白書の統計データを抜粋してみた⑱)

統計・調査記事
この記事は約5分で読めます。

毎年、経済産業省中小企業庁から発行される中小企業白書。2022年版の白書は表紙から参考文献などを含めると590ページに及ぶ。そこで、統計データを、製造業を中心に中小企業に関係する者が参考にしやすいように抜粋して、回数を分けて紹介する。第18回目は中小企業における経営理念・ビジョンの浸透(その2)についてまとめた。

【ユニークアイズサマリー】経営理念・ビジョン(以下、経営理念など)を現経営者が策定した企業は約46%、歴代の経営者が策定した企業は約54%だった。また経営理念などを歴代経営者から直接的に継承してきた企業ほど、コロナ禍という有事の中で、経営理念・ビジョンに立ち返って経営判断を下す割合が高かった。経営理念・ビジョンを経営判断のよりどころの一つとしていたことがうかがえる。
経営理念などを策定したきっかけは、約4割の企業が「事業の継承・経営者の交代」だった。経営理念などを見直した企業の6割以上が経営理念・ビジョンと経営戦略との整合性を重視している結果だった。

ここ最近、大企業を中心に企業説明の際に企業の存在意義を意味する「パーパス」という言葉を用いることが多くなっている。そのほかにもESG(環境・社会・企業統治)経営やSDGs(国連の持続可能な開発目)を重視した経営などを取り入れる企業も多い。経営理念などは、なかなか変えるものではないの認識が一般的にあると思うが、逆に「変えてはいけない」という固定概念が、外部環境の変化が激しい社会の中で企業の存在意義が失われてしまう可能性もある。

※以下、本文中の文章は「中小企業白書 2022」から一部抜粋したもの。
※本記事の図はすべて「中小企業白書 2022」から抜粋しているが、元データの参照元は図表内に記載されている。

現在の経営理念・ビジョンを策定した経営者

現在の経営理念・ビジョンを策定した経営者について確認していく(第2-2-64図)。これを見ると、現経営者が策定した企業と歴代の経営者が策定した経営理念・ビジョンを継承している企業がそれぞれ約5割となっている。歴代の経営者が策定した経営理念・ビジョンを継承している企業を見ると、現経営者が事業承継するに当たり、3割以上は経営理念・ビジョンについて教育や指導を直接受ける機会があったことが分かる(第2-2-65図)。他方で、「特になし」と回答した企業など直接的な教育や指導がなかった企業も少なくないことが分かる。

(出典:中小企業白書 2022)
(出典:中小企業白書 2022)

継承方法別に見た、感染症下において、経営理念・ビジョンに立ち返り経営判断を下した機会

第2-2-66図は、継承方法別に見た、感染症下において、経営理念・ビジョンに立ち返り経営判断を下した機会について示したものである。これを見ると、事業の承継に際し、創業者・歴代経営者から教育を受けて直接的に経営理念・ビジョンを学んだ企業は、間接的に学習・理解した企業に比べ、経営理念・ビジョンに基づいて経営判断を下した割合が高いことが確認できる経営理念・ビジョンを直接的に継承してきた企業は、感染症下という有事に的確な経営判断を下す基準が求められる中で、経営理念・ビジョンを経営判断のよりどころの一つとしていたことがうかがえる。円滑な事業承継を目指す企業は、事業承継ガイドラインでも示されているとおり、後継者と早い段階から対話を重ね、自社の存在意義や目指す未来像をしっかりと後継者に教育や指導していくことが重要といえよう。

(出典:中小企業白書 2022)

経営理念・ビジョンを策定した動機・きっかけ

次に、経営理念・ビジョンを策定した動機・きっかけを確認する(第2-2-67図)。これを見ると、約4割の企業が「事業の継承・経営者の交代」を機に策定したことが分かる。中小企業白書(2021)において、後継者が事業承継後に意識的に取り組んだこととして「経営理念の再構築」が上位に挙げられている が、今回の結果からも、事業承継が経営理念・ビジョンを策定する動機・きっかけとなったことが見て取れる。また、「事業の継承・経営者の交代」、「会社創業」に次いで、「企業規模の拡大・事業内容の変化」、「外部環境の変化」が挙げられている。経営体制の変化のみならず、事業内容や外部環境の変化を機に経営理念・ビジョンを策定した企業も確認できる

(出典:中小企業白書 2022)

策定の動機・きっかけ別に見た、感染症下において、経営理念・ビジョンに立ち返り経営判断を下した機会

前掲の結果を踏まえて、経営体制・事業内容・外部環境の変化(以下、「社内外の変化」とする。)を機に策定した経営理念・ビジョンに着目する。第2-2-68図は、策定の動機・きっかけ別に見た、感染症下において、経営理念・ビジョンに立ち返り経営判断を下した機会を示したものである。これを見ると、社内外の変化を機に経営理念・ビジョンを策定した企業は、会社創業を機に策定した企業と比べ、経営理念・ビジョンに立ち返って経営判断を下した割合が高いことが分かる。外部環境が大きく変化した感染症下という局面において、社内外の変化を機に策定した経営理念・ビジョンが重要な役割を担っていた様子がうかがえる

(出典:中小企業白書 2022)

策定の動機・きっかけ別に見た、経営理念・ビジョンが従業員の統率やモチベーション向上に寄与した機会

第2-2-69図は、前掲の第2-2-68図と同様に、策定の動機・きっかけ別に見た、従業員の統率やモチベーション向上に寄与した機会を示したものである。経営者側から確認した調査ではあるが、社内外の変化を機に経営理念・ビジョンを策定した企業は、会社創業を機に策定した企業に比べ、従業員の統率やモチベーション向上に寄与した機会を実感していることが確認できる

(出典:中小企業白書 2022)

経営理念・ビジョンを見直した経験別に見た、経営戦略との整合性

第2-2-70図は、経営理念・ビジョンを見直した経験別に見た、経営戦略との整合性を示したものである。これを見ると、見直した企業の6割以上は、経営理念・ビジョンと経営戦略との整合性を重視していることが分かる。他方で、経営理念・ビジョンは経営戦略と有機的に本来結びつくものだが、見直した経験がない企業は、整合性を重視している割合が4割を下回ることが見て取れる。Collins・Porrasは、経営理念・ビジョンの構成要素であるコアバリューとパーパスは普遍的な存在としつつも、ミッションは達成されるたびに中長期的なサイクルで見直されることが優れた企業の特長であると指摘している。会社創業時から掲げる経営理念・ビジョンが形骸化している場合には、経営理念・ビジョンを再構築し、経営戦略と結びつけていくことも重要な取組の一つといえるのではないだろうか

(出典:中小企業白書 2022)
PAGE TOP